メタボさんは妻を深く愛してはいるが、基本妻の「働き過ぎ!」と言う警告はガン無視。
いなばも負けておらんので、隙あらば医者と名のつくプロフェッショナルに告げ口して、叱ってもらうようにしてる。
プロから言われると若干凹むらしく、効き目があるのだ。
ところが先日、夫婦で並んで受けた鍼灸治療の最中に、
「センセイ、私の妻が、夜遅くまでインターネットで遊んでイル。昨日は3時マデ…」
まさかの告げ口返し。そんな機能ついてたなんて。
当然その場はあたいが先生に叱られる羽目に。
鍼灸医の先生が調べごとがあるってんで、引っ込んだ後、お灸と鍼をされた状態でしばらく待つ間、いなば早口の巻き舌で英語でメタボにすごんだよ。
「あんなん先生に告げ口するなんて、どういうつもりよ!!!」
「だって、いなばちゃんが夜更かしするから・・・」
「しゃらっぷ! しゃらっぷ!! しゃっちゅーふぁっくあっぷ!!!」
「えええ、そんなひどいいいいい」
「うるさいわい、わいふるーるず、はすばんどおべーい!!(妻が支配するんだ、良人は従え!!」
カッコよく決めたところで、カーテンの向こうで先生が大爆笑する声が聞こえた。
「…あれ。先生、留学されたのは中国でした、よね?」
「ああ、鍼灸の勉強のために行ったのは中国なんですけど、私、大学ICUなんですよ」
そら、英語出来て当たり前や。そういうことは早めに教えて欲しかった…。
「いやあ、聞いて意味はわかりますけど、話しかけられたら出てくるのは中国語なんで、あんまり意味ないです」
「あ、それわかります。うちのメタボさんも、中国語聞いて意味はぼんやりわかるんですけど、返そうとすると日本語になっちゃう。どうも外国語ってスイッチが入ると、第一外国語の日本語が飛び出ちゃうみたいで、先生はそれが中国語なんですねー」
「そうなんです、そうなんです。○×△■」
うなずいた先生がなんか中国語で話すも、メタボ無言。意味は理解したけど、中国語で返そうとしてフリーズしたっぽい。
「メタボさん良かったねー。先生英語わかるから、これからは痛いとことか症状、英語で話せばいいじゃん!」
「聞き取りはわかりますけど、喋るとしたら中国語になっちゃいますけどね」
「っていうか、そうやって考えると、メタボさんと先生って、三か国語で意志を疎通しあえるんですね。英語と、日本語と、中国語と! なんかすごい、それって、運命の人じゃないですか!!」
いなば的にはすげえ感動&興奮して言ったわけだが、男二人は顔を見合わせて微妙な顔で、「ああ、まあ」と声をそろえた。
なんか、「運命の人」がこの人なのは、双方嫌だった模様。なんだよ。すごいミラクルなのに。
しかも結局、お互い、自分が得意じゃない言葉で答えるのはなんか気がひけるみたいで、かといって得意な言葉で話すのも照れくさいらしく、最初から最後まで日本語で通してた。メタボなんかどこがどう痛いとか説明にすごい苦労してたのに、最後まで日本語。プライドと気遣いの兼ね合いでそうなったっぽい。
頭の良い男って、変なとこ不便。