会社のお使いで、霧雨にしっとり濡れた街路樹の下をほたほた歩いてたら、でっけえ犬に追い越された。
伸縮自在リードをゴンゴン伸ばし、一目散に進む馬鹿犬(失敬)を追って、白人のおっちゃんが「すみません、すみません!」と謝りながら続く。
ランニング姿でランニングしたい気満々ぽいが、犬が馬鹿すぎてあきらかに上手く行ってない。
彼がランニングしたい時に犬がいちいち止って尿。
彼がランニングしたい時に犬があさっての方向に激走。
そんな調子だから、ほてほて歩いてるいなばが常に追いつけ追い越せ状態。
赤信号で立ち止まった瞬間目が合って、思わずつっこんでたよ。
「・・・それ、一緒にやるの無理があるんじゃ?」
「へ?」
「散歩とランニング」
「そんなことない、コビィは良い子なんだ! ただ雨の日にはちょっとはしゃぎすぎるだけで!!」
まあ、愛犬家のコメントに突っ込むのも野暮だ。
生ぬるく頷いて歩き出したいなばの隣で、おっちゃんが暴れまくる犬を必死で御しつつこうぼやく。
「ほんと水が好きな奴で、代々木公園に行く度池に飛び込んで出て来ないんだよ。あの癖さえなければ本当に良い犬なんだけど」
「いやー、それ以外にも色々問題はありそうだけど、っていうかその場合どうすんの? 自分も池に入る?」
「人間は遊泳禁止だから、奥の手を使う。コビィの見えないところに隠れてひたすら待つ。そうすると俺がいないことに奴が気づく」
「それで出てくる?」
「来ない。世にも哀しげな声で鳴き始める」
「このでか犬が? かわいー」
「いや、むしろ気持悪い声なんだけど、それがだいたい5分」
「長っ!」
「それから諦めて、すごい勢いで水から上がってきたところを確保する」
駄々をこねる2歳児相手の親プレイか。
「前は10分鳴いてたのが今は5分に縮まったんだから、賢い子だよ」
そしてお前は典型的な親ばかタイプか。
「雨の中ランニングして平気ってイギリスの方っすか?」
「いや、俺はアメリカ人です」
この無神経さ、確かに。
「いやー、やっぱランニングと散歩は切り離した方が良いと思うよ」
気持メタボな彼の腹まわりを眺めていなばが呟いたところ、野郎笑顔でこう言った。
「所で君、この後暇? 旨いベルギービール飲ませる店知ってるんだけど」
散歩とランニングとナンパを同時進行させようとする気概、結果を気にしない度胸、さすがアメリカ人。
ってかだからメタボなんだよ。